2012年11月21日水曜日

『横尾忠則 初のブックデザイン展』:横尾忠則の仕事・オーラやイメージと呼ばれるもの

ギンザ・グラフィック・ギャラリー『横尾忠則 初のブックデザイン展』
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されている「横尾忠則 初のブックデザイン展」を観てきました。

薄暗い会場入り口は強烈な蛍光ピンクで彩られ、地下スペースはここがギンザ・グラフィック・ギャラリーとは思えないようなアングラなイメージ。デザインを正確に見るにはもう少し明るさが欲しいところですが、この雰囲気は横尾忠則さんにはとても似合っているように感じました。この雰囲気も横尾さんが作り上げてきた作品であり、実績であり、人によってはオーラやイメージと呼ぶものなのでしょう。

「99.999……パーセント、著者の指名によって本の装丁の依頼が来る」横尾さん曰く、ご自身のブックデザインは「作家とデザイナーの『想像力と想像力のぶつかり合い』」。この展覧会もまた、あたかも「アーティスト:横尾忠則」と「デザイナー:横尾忠則」のぶつかり合いのような、激しいエネルギーと対峙する体験でした。

展示されているそれぞれの作品と、それに添えられたコメントは「なぜ、このデザインに至ったのか、その過程でどのようなことが起こったのか」などドキュメンタリータッチと言っても過言でないような、生々しい手触りを感じさせるものばかりです。とりわけ私の印象に残ったのは大きくディスプレイされていた「ブックデザインを時間と空間の芸術と考えている。だからデザインする時は映画の編集や、または彫刻を創るような気持ちで作業する」という言葉ですね。

草森紳一さんの『江戸のデザイン』の装幀では、資料をご自分で集めたり、編集部からもらったりして、内容は読まずにデザインを進めたそうですが、最も多く手がけている瀬戸内寂聴さんの装幀では、一言も注文がなくても何度もゲラを読み返してデザインにとりかかったそうです。同じ装幀の仕事でもまったく逆のアプローチでデザインを進めているのが興味深いです。

『横尾忠則 初のブックデザイン展』会場

寺山修司さんの『書を捨てよ、町へ出よう』では、カバーをめくるとビートルズの写真が使われていました。そのまま使うと著作権使用料がかかるのでこっそり使ったということでしたが、これはどう考えても横尾さんだから成せる技です。(別会場にはジョン&ヨーコと三人で写した写真もありました。)「こういうユーモアをとても大切にしている」そうですが、普通のデザイナーがこんなことをやってしまったら、ユーモアを通り越してデザイナー生命終了です。

その他にも三島由紀夫さんの装幀を手掛けた時の逸話など(三島さんはアートディレクターの立場で、ラフスケッチまで持って現れ、出来上がったデザインにも平気でやり直しの注文をつけたそうです。)、デザインが完成するまでのやりとりは本当に面白いものでした。とても参考になるものから、横尾さんならでは過ぎてまったく参考にならないものまで、見応えのある作品とコメントが揃っています。

『横尾忠則 初のブックデザイン展』ポスター
同展覧会のポスター。

この展覧会と併せて、近々『横尾忠則 全装幀集』も発売されます。1957年から2012年の作品まで、55年間の装幀が約900点収録されるそうですよ。

「横尾忠則 初のブックデザイン展」は、11/27日(火)まで。